2017年11月26日日曜日

命懸けの北朝鮮木造船、日本近海に出漁する理由とは

 25日午前6時半ごろ、新潟県佐渡市北片辺の海岸で、大破した木造船とみられる木片と男性とみられる遺体1体が見つかった。佐渡海上保安署は北朝鮮から漂着した可能性があるとみて調べている。23日には秋田県由利本荘市でも木造船が漂着し、北朝鮮から漁に来たという8人を県警が保護している。なぜ、北朝鮮からの木造船漂着が相次いでいるのか。コリア・レポートの辺真一編集長は「制裁強化の中で、金正恩委員長からの漁獲ノルマ達成のため、命がけで無理をした結果」とみている。

 佐渡でも大陸側に面した「大佐渡」側の海岸で遺体が発見された。現場付近では23日にも、ハングルが書かれた木造船が漂着。遺体の付近の木片や船首部分とみられる破片は、23日の漂着船と似ているという。佐渡海上保安署は、現場の状況から北朝鮮から漂着した可能性があるとみている。

 23日夜に由利本荘市の海岸に漂着した木造船の中には、水揚げしたイカが積まれていた。秋田県警は25日、この船が現場からなくなったと明らかにした。保護された8人は朝鮮語で「漁をしていて船が故障し、漂着した」と説明。帰国を望んでいるという。

 15日には、日本海の好漁場として知られる「大和堆(やまとたい)」付近の海で、小型船1隻が転覆し、海上保安庁が3人を救助した。日本の排他的経済水域(EEZ)内の大和堆では今年、違法操業する北朝鮮の木造船数百隻に海上保安庁が警告と放水を繰り返してきた。

 なぜ、木造船が相次いで流れ着くのか。辺真一氏は「農業が芳しくなく、食糧難の北朝鮮にとって海産物は国民の貴重な食料資源であり、重要な外貨獲得手段。多くは10メートル程度の古い木造船でエンジンも老朽化し、燃料も少ないが、無理して遠くへ漁に出た結果、漂流する」とみている。

 辺氏によると、北朝鮮は外貨獲得のため、沿岸部の漁業権を中国に売り渡している。このため、小型船でも、より遠い大和堆付近まで漁に出る。ミサイル問題をめぐる国連の経済制裁強化で北朝鮮の海産物も輸入が禁止されたが、辺氏は「洋上の密輸はあると思う」とみる。

 なぜ、そんな危険な操業をするのか。漁師たちについて、辺氏は「多くは食料調達部隊の兵士」と指摘する。「『水産量を飛躍的に増やすため、戦え』という金正恩委員長の大号令に従い、北朝鮮メディアは『漁は戦闘』『漁場は戦場』『漁師は戦士』と呼び、漁に出て死ねば『殉職』と扇動している」という。だから、他国のEEZでも、壊れそうな船でも漁に行く。辺氏は今後についても「制裁が強まるほど漂流は増える」とみている。

 ◆大和堆 深さ2000~3000メートルの日本海の中心部にある海の中の山「大和海嶺(かいれい)」の一部。大和堆の一番高いところは、海水面下236メートルで、周囲より浅い。寒流と暖流の境界部にあたり、スルメイカ、ベニズワイガニのほか、ハタハタ、アカガレイなどの底魚の好漁場となっている。

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