2017年11月29日水曜日

北朝鮮船相次ぎ漂着 制裁下、食糧・外貨は漁業頼み

 秋田や石川など日本海側の各県で北朝鮮籍とみられる木造船の漂着や漂流が相次いでいる。日本の排他的経済水域(EEZ)内にある好漁場「大和堆(たい)」でイカ漁などの違法操業中に遭難したとみられる。荒れた海に老朽化した木造船での出漁を強行する背景には、国際社会の厳しい制裁下で、北朝鮮にとって漁業が食糧確保と外貨稼ぎの貴重な手段となっていることがある。

 木造船の漂流や漂着は11月に入り、秋田、青森、石川などの各県で頻発。28日も秋田県男鹿市沖などでの木造船の目撃情報が寄せられている。

 男鹿市に26日漂着した別の木造船からは8人の遺体が発見された。遺体の一部は白骨化し死後長期間が経過しているという。船は全長約7メートル、幅約2~3メートル。船内に北朝鮮製とみられるたばこの箱があった。同県由利本荘市に23日漂着した船には男性8人の生存者がおり、警察に「イカ漁で約1カ月前に北朝鮮の港を出発したが、エンジンが故障した」と話した。

 海上保安庁によると、これまでも北朝鮮籍とみられる木造船は漂流、漂着している。2013年以降は年間45~80件あり、今年は11月22日時点で43件。「冬の日本海は荒れる。木造船は難破や転覆をしやすく、今後も漂着が続く可能性がある」(海保)という。

 秋田県由利本荘市の「本荘マリーナ」付近に漂着し係留された木造船(24日)=共同

 秋田県由利本荘市の「本荘マリーナ」付近に漂着し係留された木造船(24日)=共同

 漁船は日本のEEZ内にある大和堆付近に集結している。日本海の水深は約3千メートル。中央部に高さ2千メートル以上の山脈があり、水深236メートルの最も浅い部分は大和堆と呼ばれる。地形の影響で海流が複雑になり、プランクトンが多く発生する。

 大和堆では6月ごろから北朝鮮籍とみられる漁船団の違法操業が多発。海保の巡視船が取り締まりを強化したため、漁船団はいったん姿を消したが、秋のイカ漁などのシーズンに入り再び集結している。山形県漁業協同組合の関係者は「北朝鮮の漁船団は密集しており、危なくて操業できない」と頭を抱える。

 違法操業の広域化も懸念される。北海道沖の好漁場「武蔵堆」の近くでも木造船の目撃情報があり、石川県漁協は海保などに取り締まり強化を要望した。同漁協の担当者は「EEZ内の貴重な漁場が荒らされるのは死活問題だ」と訴える。

 一方、北朝鮮は国際社会の経済制裁が強まる中、国を挙げて漁獲量の拡大に力を入れている。「冬季漁業は年間水産物生産計画の成果を左右する重要な闘いだ」。7日の朝鮮労働党機関紙、労働新聞(電子版)は社説で檄(げき)を飛ばし、「漁船は祖国と人民を守る軍艦であり、魚は軍と人民に送る銃弾・砲弾と同じだ」と呼びかけた。

 背景には金正恩(キム・ジョンウン)委員長の指示がある。16年に軍の水産事業所を訪れた際、「軍人と人民に新鮮な魚を切らさず供給しよう。ただ魚だけを多く取りなさい」と命じた。特に冬季漁業を督励し「年間300日以上の出漁」の課題を示した。韓国統一省報道官は「水産業が主要な外貨稼ぎの一つだ」と分析する。

 ただ、北朝鮮の漁業環境は厳しい。韓国政府によると、国連制裁で石炭や武器輸出が大幅に減り、北朝鮮当局が外貨稼ぎのため漁業操業権を中国に大量に販売したことで北朝鮮の漁獲量が減り、住民の不満が強まっているという。

 日本政府関係者は「北朝鮮が中国に沿岸部の漁業権を売却したため、沖合に出て操業せざるをえなくなった」と指摘。制裁による外貨不足が北朝鮮を違法操業に駆り立てているとみている。

 国連制裁では北朝鮮産の海産物も禁輸対象に加わった。北朝鮮当局が冬の漁を強いるのは、慢性的な食糧不足のほか、制裁後も国境付近では海産物が密輸の対象になっている可能性を指摘する専門家もいる。

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https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2399413028112017EA1000/

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