2017年8月1日火曜日

大阪悲願、登録へ「一歩」 百舌鳥・古市古墳群

百舌鳥・古市古墳群の世界遺産登録への推薦が決まり、喜ぶ関係者ら=堺市堺区で2017年7月31日午後4時44分、三浦博之撮影

 31日の国の文化審議会で世界文化遺産登録への推薦が決まった大阪府の「百舌鳥(もず)・古市古墳群」(堺市、羽曳野市、藤井寺市)。近畿2府4県で唯一、世界遺産のない大阪府にとって登録は悲願だが、過去3回の挑戦は見送られ、4度目でようやく結実した。2019年の登録を目指してスタートラインに立った地元では歓声がわき起こった。

 午後4時前、大阪府庁には世界文化遺産登録推進本部会議メンバーらが集合。会長の松井一郎知事が「推薦候補に決定された」と報告すると、本部長の竹山修身・堺市長らから拍手が起きた。松井知事は「今回は第一歩。正式に登録されたら全身で喜びたい」と気を引き締め、竹山市長は「まずは喜びたい。登録まで頑張りたい」と笑顔を見せた。

 世界最大級の墳墓として知られる大山古墳(仁徳陵古墳、墳丘長486メートル)を眺望できる高さ80メートルの堺市役所21階には市民ら約300人が集まった。吉報が届くとどよめきが起き、くす玉を割って喜んだ。市の広報キャラクター「ハニワ課長」は「ポーカーフェースなので伝わらないが、『やったー』という気持ち」と両手でガッツポーズを決めた。

 藤井寺市では古室山古墳の墳丘に市立道明寺南小学校の児童ら市民約150人が集合。4年の板村神奈(かんな)さん(9)は「観光名所になってほしい」と期待を寄せた。

 羽曳野市は職員らが近鉄南大阪線古市駅前などで「国内推薦決定」の見出しが躍る広報号外を配った。受け取った同市の会社員、藤野広也さん(29)は「このまま世界遺産に選ばれてほしい」と話した。【念佛明奈、金志尚、加藤佑輔】

4度目でやっと

 4度目の挑戦で世界文化遺産登録への推薦が決まったのは、国に提出した推薦書原案を、分かりやすく改めたことが奏功したためだ。ただ、文化審議会は決定に際して「いまだ大きな課題を抱えている」「推薦を取り下げる場合もある」などとしており、登録実現までには多くのハードルが残っている。

 世界遺産登録の条件となる「顕著な普遍的価値」について、府と3市は昨年までの挑戦では、古墳の大きさや形から埋葬者の政治的身分などを示す「階層性」を細かく五つに分けて説明していた。ただ、審議会は「分かりづらい」と批判し、過去の世界遺産登録にかかわった欧米の学者も「事実と解釈を分ける必要がある」と指摘。このため、国内でしか通用しない解釈を価値の説明から削除。前方後円墳など多様な墳形や規模が400メートル超から20メートルまでにわたる事実を説明の中心に据え、保存状態の良くない10基を外して49基に絞った。

 それでも課題は多く残る。古墳の濠(ほり)の水の波で墳丘部が崩れ、濠に産業廃棄物が捨てられ、大量発生したアオコが腐り異臭を放ったこともある。東西に約10キロ離れる百舌鳥-古市間の移動方法も模索が続く。

 大阪府などは年内にも、49基中29基を管理する宮内庁をメンバーに含めた協議会を結成する。登録実現に向けて、堺市の担当者は「着実に課題を解決したい」と話している。【山下貴史】

 【ことば】百舌鳥・古市古墳群

 堺市の百舌鳥古墳群と大阪府羽曳野市、藤井寺市の古市古墳群から成り、4世紀後半~6世紀前半に造られた計89基が現存。このうち今年3月に文化庁に提出した推薦書原案は4世紀後半~5世紀後半の49基で構成する。歴代の天皇・皇后、皇族の「陵墓」とされる古墳が多くあり、原案は「仁徳天皇陵古墳」などと記す。ただ、被葬者が誰かは不明確な上に、築造時に天皇という言葉はなく、考古学者らは1970年代から各陵墓の呼称を、地名を基本とすることを提案。教科書や地図も「大山古墳」などを採用している。

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