学校法人「森友学園」(大阪市)との国有地取引に関する決裁文書改ざん問題で、当時財務省理財局長だった佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問が27日、衆参両院で行われる。約300カ所に及ぶ改ざんに誰が、どう関わったのか。省内だけの判断だったのか。問題の発端となった異例ずくめの取引や、改ざんの経緯をたどった。【岡村崇、宮嶋梓帆、杉本修作】(本文と経過表の太字は決裁文書の改ざんで削除された内容)
◆「特例」だらけの取引
「小学校用地として取得を検討している」。大阪府豊中市の国有地を巡り、学園前理事長の籠池泰典被告(65)=詐欺罪などで起訴=が財務省近畿財務局を訪れたのは、2013年6月だった。籠池被告は貸し付けを希望したが、国有地は売却が原則。そこで頼ったのが政治家だった。
「金はないが、小学校をやりたい」。籠池被告から陳情を受けた鴻池祥肇・元防災担当相の秘書は8月、財務局に「学園が土地購入までの間、貸し付けを希望している」と電話。翌月、籠池被告は「財務局が7~8年賃借後の購入でもOKの方向」と鴻池事務所に報告し、交渉は順調に滑り出したかに見えた。
しかし、大阪府の認可がネックになる。府は学園から小学校設置の相談を受けたが、「資金計画の妥当性が説明できる資料の提出がない」として正式に受理していなかった。
14年4月15日、学園は国有地のある豊中市とも開発協議を急ぐ必要があるとして財務局に契約締結を求めたが、府の認可がないなどの理由で断られた。
昭恵氏の名で一変か
ところが、国の態度が突然変わる。安倍晋三首相の妻昭恵氏が14年4月25日に学園の幼稚園で講演し、小学校予定地を訪問。籠池被告は3日後にその際の写真を財務局職員に見せ、「総理夫人から『いい土地ですから、前に進めてください』とのお言葉をいただいた」と関係をアピールした。財務局は6月、豊中市との協議を進める「承諾書」を出し、売却前提の貸し付けに協力すると学園に回答した。
15年1月、財務局は年間賃料の概算額を提示。約4000万円で籠池被告の希望額2300万円とは開きがあり、鴻池事務所に「高すぎる」と相談した。その後も、平沼赳夫・元経済産業相ら複数の議員秘書を通じて値下げを画策。独自に国有地のボーリング調査を実施し、土地が軟弱地盤だとする資料も国に突きつけた。
だが、近畿財務局が地質調査会社に意見を求めたところ、「特別に軟弱とは思えない」との回答を得た。それでも、局内の法務部門が学園から損害賠償請求されるリスクを指摘し、賃料を見直すことに。15年5月、学園の要望に近い年2730万円で契約を結んだ。改ざん後の決裁文書からは調査会社の否定的な見解は削除され、「不動産鑑定士に意見聴取したところ、賃料に影響するとの見解あり」と書き換えられていた。
この年の9月に昭恵氏は名誉校長に就任し、開校の機運が高まっていった。
◆異常な値引き額
「新たなごみ」主張
国は貸し付け契約時、地下3メートル程度までの深さにごみがあるという過去の調査結果を学園に伝えていた。学園は15年7~12月、土壌汚染やコンクリートがらなどを撤去する「土壌改良工事」を実施。工事費約1億3000万円は学園が立て替え、国が事後精算する仕組みだった。しかし、国が予算計上していないと知った籠池被告は「考えられない事態が生じている」と書いた手紙を昭恵氏付の政府職員に送るなど、国と学園との緊張関係は続いていた。
籠池被告の更なる怒りの原因となったのが「新たなごみ」だった。16年3月11日、学園はくい打ち工事中、大量のごみが出たと財務局に連絡。15日には籠池被告と妻諄子被告(61)が財務省に乗り込み、田村嘉啓・国有財産審理室長(当時)と面会した。
「話をつけなあかんことがある」。籠池被告がやり玉に挙げたのは、前年の土壌改良工事での「議事録」だ。国は15年9月、ごみをどの程度撤去するか業者と相談。財務局職員は「予算に限度がある」として、ビニールなど生活ごみは撤去しない考えを伝えていた。籠池被告らはその時残したごみが出てきたとして「学校の設立を邪魔するのか」「損害賠償だ」と語気を強めた。
撤去費算定の実情
財務省に夫妻が乗り込んだ翌日の16年3月16日。学園を訪れた財務局職員らに、籠池被告は言い放った。「安倍夫人から電話ありまして。『どうなりました、がんばってください』って」。職員らは平身低頭で「(ごみが)深く地中にあるのであれば評価で反映させる」と売却時に値引く考えを示唆した。
3月30日の協議では、財務局職員が地下3メートルより深いごみは「国が知らなかった事実なので、きっちりやる必要があるというストーリー」と発言。業者が「3メートルより下から出てきたかは分からない」と疑問視する発言も音声記録に残っている。
この間の交渉で、学園は土地を早期に買い取り、金額に納得できれば賠償請求しないと提案。国も合意し、後は3メートルより深い所にごみがあったとする資料を整える必要があった。
学園は4月11日、業者の試掘で地下3・8メートルにごみがあったとする報告書などを国に提出。国はわずか3日後、ごみ撤去費を約8億2000万円と積算し、値引き額が決まった。6月20日、国は土地評価額から同額を引いた1億3400万円で学園に売却。学園の要望で10年間の分割払い、売却額も非公表という特別扱いだった。
「学園の提案に応じなかった場合、損害賠償に発展するとともに、小学校建設の中止による社会問題を引き起こす可能性もある」。財務局は改ざん前の決裁文書にこう記していた。
◆改ざん、首相答弁後
夫人の名、なぜ削除
財務省によると、決裁文書の削除や書き換えが行われたのは、昨年2月下旬~4月。この頃、国会では森友問題を巡って野党が安倍政権への批判を強めていた。昨年2月上旬、当時は非公開だった学園への国有地の売却額について、地元の豊中市議が情報公開を求めて提訴したのを機に、8億円の値引きが発覚したからだ。
「私や妻が払い下げに関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」。昨年2月17日の衆院予算委員会で、安倍首相は語気を強めた。改ざんが行われた時期はこの答弁以降ということになり、野党側は首相答弁への「そんたく」で決裁文書から昭恵氏の名前が削除されたのではないかと追及している。
当時財務省理財局長だった佐川氏の国会答弁も、国と学園との価格を巡るやり取りを記載した改ざん前の決裁文書との食い違いを見せている。同15日の衆院財務金融委では「ごみ撤去費は適正に算定した」と説明。同24日の衆院予算委では「売買契約の締結に至るまでの近畿財務局と学園との交渉記録というものはございません」と述べ、翌3月15日の衆院財務金融委で「価格を提示したことも、先方からいくらで買いたいと希望があったこともない」と言い切った。
同2日の参院予算委では「政治家の方々の関与は一切ございません」と強調し、翌4月13日の参院財政金融委では「政治家の事務所を含めて外部からの問い合わせは多数あるが、個別の記録は残されていない」と突き放した。改ざん前の決裁文書には、昭恵氏だけでなく鴻池氏や平沼氏ら10人もの政治家の名前が記されており、佐川氏の答弁と明らかに矛盾している。
「佐川の答弁に合わせて書き換えたのが事実」。今月12日に財務省が決裁文書の削除や書き換えを公表して以降、その理由について、麻生太郎財務相は繰り返しこう説明している。一方、佐川氏の後任の太田充理財局長は「政府全体の答弁は気にしていた」と述べており、改ざんの背景に昨年2月17日の首相答弁の影響があったことを否定していない。
誰が指示?
財務省の内部文書を巡っては新たな疑問も浮上している。佐川氏は理財局長時代、学園との売買交渉の記録について「廃棄した」と繰り返し答弁していた。ところが、昨年2月に国有地取引の問題が発覚して以降も、近畿財務局の職員が「手控え」として記録を保存し、同省理財局の一部にも報告されていたことが毎日新聞の取材で明らかになった。改ざんされた決裁文書のほかにも、学園とのやり取りの詳細な記録が残されていたことになる。
今月19日には、財務省が改ざん文書がもう1枚あったことを公表。売却に関する決裁文書に含まれていた「森友学園事案に係る今後の対応方針について」(16年4月4日付)と題した書面で、土地を管理する国土交通省大阪航空局が「(ごみの撤去に)早急な予算措置は困難で、売却価格からの控除を提案することで事案の収束を図りたい」と近畿財務局に要請したことなどが削除されていた。
一連の土地取引の背景に何があったのか。文書の改ざんや「廃棄」を最終的に決めたのは誰なのか。野党は売却交渉時の近畿財務局長だった武内良樹財務省国際局長や、当時の理財局長だった迫田英典元国税庁長官らの証人喚問も求めている。
担当部署、職員自殺
「今日のニュースで知りました。本当に残念なことだと思いますし、本当に心からご冥福をお祈りしたい」。佐川氏は国税庁長官を辞した9日夜、報道陣にこう語った。この日、近畿財務局で森友学園への国有地売却を担当していた部署に所属していた男性職員の自殺が発覚した。
関係者によると、昨年秋以降は病気を理由に休んでいて「書き換えをさせられた」「本省からの指示だった」という内容のメモが自宅に残されていたという。
職員が自ら命を絶った理由に、改ざんとの関連はなかったのか。自殺の発覚と、佐川氏が退任した日が重なったのは偶然の一致だったのか--。職員の親族は報道陣に語った。「本来やるべきでないことをやらされたのではないか。全てが明らかになってほしい」
https://mainichi.jp/articles/20180325/ddm/010/040/055000c
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