「答弁を差し控えたい」。学校法人「森友学園」(大阪市)との国有地取引を巡る決裁文書の改ざん問題で、27日午前に参院予算委員会で行われた佐川宣寿(のぶひさ)前国税庁長官に対する証人喚問。改ざん当時の財務省理財局長は、大阪地検による捜査を理由に詳しい証言を拒み続けたものの、安倍晋三首相周辺の関与についてはきっぱりと否定した。 【杉本修作、山崎征克、土江洋範】
27日午前8時50分、黒塗りの車で国会議事堂前に到着した佐川氏。黒っぽいスーツに身を包み、緊張した面持ちでカメラのフラッシュを浴びながら、資料が入っているとみられる紙袋を抱え足早に3階の証人控室に入った。
「国会でこのような混乱を招き、行政への信頼を揺るがせる事態になった責任は、ひとえに私にある。深くおわび申し上げたい」。午前9時半過ぎ。参院第1委員会室で証言に立った佐川氏は冒頭、3秒間にわたって頭を下げた。ただ、その後に委員から、自身の関与や指示について何度問われても「刑事訴追の恐れがあるので答弁は控えたい」を連発し、審議が度々中断。野党側から「おかしい」などとやじが飛び、共産党の小池晃氏が「これでは喚問の意味がない」と声を荒らげる場面もあった。
昨年の国会審議では、野党の質問を突っぱねるように答弁する姿が目立った佐川氏。国有地売却を巡る交渉記録の開示を求められても保存義務が1年未満になっているとして、何度も「破棄した」と断言していた。
だが、近畿財務局の職員が「手控え」として記録を保存していたことが毎日新聞の取材で判明。この日の喚問で、当時の答弁への認識を問われた佐川氏は、記録の存否を確認していなかったことを明かし、「(保存義務が1年未満という)文書管理規則の規定を述べただけだった。国会で丁寧さを欠いて申し訳ないと思う」と反省の言葉を口にした。
一方で、首相周辺や麻生太郎財務相から指示があったかについては、「本件は理財局内の個別案件。財務省の官房部局や総理官邸に報告することも指示されることもなかった」と明言。手ぶりを交えながら早口で答え、大阪府豊中市の国有地が約8億円値引きされて1億3400万円で学園に売却された経緯についても「当時の担当者ではなかったが、勉強した限りでは、総理や総理夫人の影響はなかった」と言い切った。
与党からは、政権の関与がなかったことを印象付けるような発言も目立った。自民党の丸川珠代氏は「総理からの指示はありませんでしたね」「総理夫人からの指示もありませんでしたね」と確認。「書き換え、売り払いの取引に総理、総理夫人、官邸の関与がなかったと証言が得られた。ありがとうございました」と念押しして、質問を終えた。
近畿財務局、職員ら粛々
森友学園への国有地売却に関する決裁文書改ざんの現場となった財務省近畿財務局(大阪市中央区)。他省庁の出先機関も入る大阪合同庁舎第4号館には、この日も午前8時すぎから、職員らが次々に出勤したが、庁舎前で報道陣の取材に応じる職員の姿はみられなかった。改ざん発覚後は、市民団体が庁舎前で抗議活動を行ったこともあったが、この日はなかった。
財務局のある職員は「いろいろと報道されているが、我々にも分からないことばかり」と話した。証人喚問のテレビ中継も職場でみることはないという。【山口知】
背負わされた」元同僚ら同情も
東京都内にある佐川宣寿前国税庁長官の自宅前。27日朝、証人喚問に向かう佐川氏を取材しようと20人近くの報道陣が集まったものの、人の出入りはなく、カーテンも閉じられたままだった。
近所の住民によると、数カ月前までは、ごみを出したり、犬の散歩をしたりする普段通りの佐川氏の姿が見られたという。「3月初めに、迎えの車に乗り込むところを記者に取材されているのを見たのが最後。今は、家に帰っているのかどうかも分からない」。近くに住む年配の女性は小さな声で語った。
所得税の確定申告期間中だった今月9日の朝。決裁文書の書き換え疑惑が浮上したのを受け、佐川氏は財務省の福田淳一事務次官を通じて麻生太郎財務相に辞職を申し出た。
財務官僚として事務次官に次ぐポストとされる国税庁長官。1949年の同庁発足以来、懲戒処分を受けて辞めたのは佐川氏一人だ。関係者によると、引退する長官に職員から贈られる恒例の花束は、佐川氏に手渡されることはなかった。
9日以降、国税庁では藤井健志次長が長官職を代行。同庁広報広聴室は「(長官の)部屋に私物は残っていない。あいさつ回りなどの予定もない」と説明する。
一方で証人喚問に注目する職員は少なくない。「佐川氏は捜査を受けている立場。言いたいこともなかなか言えないのではないか」との見方があるほか、「いろんなことを背負わされたのだろう」と同情する声も漏れる。【松浦吉剛、土江洋範】
https://mainichi.jp/articles/20180327/ddf/041/040/016000c
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