沖縄県は31日、米軍普天間基地(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画を巡り、仲井真弘多前知事による埋め立て承認を撤回した。撤回で埋め立ての法的根拠が失われ、工事は中断した。政府は工事再開に向け、撤回の効力を失わせる執行停止を裁判所に申し立てる方針だ。9月30日投開票の知事選を前に、政府と県の対立が激しさを増す。
承認撤回は8月8日に死去した翁長雄志知事が生前、指示したことに基づく。翁長氏死去後は職務代理者の富川盛武副知事と、撤回に関する権限を委任された謝花喜一郎副知事が準備を進めてきた。
撤回は31日付。工事主体である防衛省沖縄防衛局に撤回の通知文書を提出した。
謝花氏は県庁で記者会見し「違法な状態を放置できないという法律による行政の原理の観点から判断した」と述べた。「翁長氏の強い思いを受け止めた」うえでの決定だったとも説明した。
撤回理由として(1)埋め立て予定地に軟弱地盤が存在していることが明らかになった(2)サンゴなどの環境対策が十分ではない(3)県との話し合いが不十分なまま工事を進めている――などを挙げた。
小野寺五典防衛相は沖縄県の撤回を受けて防衛省で「非常に残念だ。処分理由を精査し必要な法的措置をとる」と述べた。対抗措置としては、撤回の効力を一時的に失わせる執行停止と、撤回処分の取り消しを近く裁判所に申し立てる方針だ。工事中断で生じる損害賠償を県に求めることも検討する。政府と県は再び法廷で争うことになる。
執行停止を巡り、政府の主張が認められれば工事を再開できる。約1カ月で結論が出るとの見方がある。知事選前に主張が認められても、政府は土砂投入を知事選後に先送りする考えだ。政府関係者は「工事全体の進捗に大きな影響はない」と語る。
承認撤回は9月30日投開票の県知事選に影響を与える可能性もある。知事選は自民、公明両党が推薦する前宜野湾市長の佐喜真淳氏と、共産、社民両党など辺野古反対派が支援する自由党幹事長の玉城デニー氏による、事実上の一騎打ちの構図だ。
辺野古移設の是非に加え、埋め立て承認の撤回を巡っても論戦が交わされそうだ。辺野古問題への注目度が高まり、移設反対派にとっては翁長氏の「弔い合戦」を展開しやすくなる。
玉城氏は8月31日、県の撤回に関し那覇市内で「県の判断を尊重し、支持したい」と述べた。
佐喜真氏は辺野古移設に関して、普天間の危険性除去を中心に訴える考えだ。これまで辺野古移設の是非については直接触れていない。31日は宜野湾市内で「しっかりした法的根拠によってのことだと受け止める。今後の国と県との動向を注視したい」と述べた。
辺野古埋め立ては前知事の仲井真氏が承認した。翁長氏は仲井真氏の方針を継がずに2015年に承認を取り消した。国との法廷闘争に発展したが、最高裁で県の取り消し処分の違法性が決まった。政府は17年4月に護岸工事に着手した。
「取り消し」は埋め立て承認前の審査段階で起きた法的な問題を理由にするが、「撤回」は承認後の工事などでの違反行為を理由にする。この2つは県知事が辺野古阻止へ講じることができる大きな権限とされる。
▼米軍普天間基地の辺野古移設 1995年に沖縄県で起きた米兵による少女暴行事件で県内の反米感情が高まったのをきっかけに、日米両政府が同県宜野湾市の米軍普天間基地の返還協議を始めた。96年に当時の橋本龍太郎首相とモンデール駐日米大使が返還で合意し移設に向けた具体的な議論を開始した。
日米両政府は2005年に普天間基地の代替施設を名護市辺野古にある米軍キャンプ・シュワブ沿岸部に建設することで一致。06年には2本の滑走路をV字に建設する案がまとまった。当初は14年までに移設する予定だったが、09年に計画見直しを掲げる民主党の鳩山由紀夫政権が発足したのを機に混乱し、実現しないまま現在に至る。
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