オウム真理教による1995年の東京都庁爆発物事件で殺人未遂ほう助罪に問われた元信者、菊地直子被告(46)に対し、最高裁第1小法廷(池上政幸裁判長)は25日付で検察側の上告を棄却する決定を出し、菊地元信者の無罪が確定することになった。これで継続中の裁判は地下鉄サリン事件などで殺人罪などに問われ、上告中の高橋克也被告(59)=1、2審は無期懲役=のみとなる。2011年に一度終わり、再開していたオウム裁判は再び終結に近づいた。【伊藤直孝、近松仁太郎、石山絵歩】
「自分の行為が、何の落ち度も責任もない方に重い被害を与えることにつながってしまった。これからの人生で重く受け止めていくことは変わりません」。菊地元信者は27日夜にコメントを出し、無罪判断を「ありがたく受け止めたい」としつつ、改めて事件への反省を述べた。弁護人は「法と証拠に基づいた判断をされた裁判所に敬意を表する」との声明を発表した。
今回の最高裁決定は、1審の判断について「事実認定で飛躍や過剰な推認がある。不合理と言わざるをえず、破棄を免れない」と批判。市民から選ばれた裁判員が約2カ月間にわたって審理に参加し、出した結論が否定されることになった。
これに対し、1審で裁判員を務めた30代の男性会社員は「(1審当時)19年前の事件で、明らかな証拠がない中で一生懸命考えて出した有罪判決だった。(無罪が確定することに)言葉が出ない」と語り、「自分たちの判決には、今も自信がある。最終的にプロの視点が結論になるなら裁判員は必要なのか」と疑問を呈した。
一方、オウム事件の被害者は複雑な心境を明かした。都庁爆発物事件で左手の指を失った元都職員の内海正彰さん(66)は代表取材に「20年という時間の経過があり、事件の真実が風化され、裁判という場で有罪が立証できなかったということだと思います」と話した。「(元信者が)17年間逃亡したこと、薬品を運んだ事実、罪の意識は確かだと思うが、立証できなかった。風化が人々の心の中まで進み、事件そのものが風化していくことを危惧します」と懸念を示した。
オウム事件に詳しいジャーナリストの江川紹子さんは「後継団体のアレフは一連の事件への教団関与を否定しており、無理に罪を作り上げることは、そうした主張を裏付けることにもなりかねない。1審判決は推測を幾重にも重ねて結論を導いており、厳密に事実を積み上げる刑事裁判の原則を裁判官がどこまで裁判員に説明していたか疑問だ。最高裁の判断は当然だろう」と話した。
都庁爆発物事件は95年5月に発生。菊地元信者は直後に特別手配され、17年間の逃亡の末に逮捕された。1審は「被告には殺傷事件の手助けをする認識があった」と懲役5年の実刑判決を言い渡したが、2審は「認識はなかった」と覆し、菊地元信者は即日釈放された。
https://mainichi.jp/articles/20171228/k00/00m/040/156000c
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