最新鋭ステルス戦闘機「F35AライトニングII」の航空自衛隊配備分の最初の1機が26日、空自三沢基地(青森県)に配備された。レーダーに極めて探知されにくいステルス性を持つことがクローズアップされるが、F35のもう一つの特徴は、多数搭載した高性能センサーなどを駆使し、水平線の向こう側を“無限に叩く”高度な連携能力にある。(岡田敏彦)
見えない脅威
世界の海軍が昔から頭を悩ませてきたのは、水平線の向こう側が見えないことだ。第二次大戦前の大艦巨砲主義の時代、主砲の射程距離は延伸していった(金剛型の35.6センチ砲で35キロメートル)が、地球は丸いため、高い艦橋からでも着弾地点が見えない。つまり弾が当たったかどうかはもちろん、そこに目標があるかどうかさえもわからないのだ。これではせっかくの長射程も宝の持ち腐れだ。
そこで観測気球を積み、高い位置から水平線の彼方を見ようというアイデアが生まれ、後には水上偵察機(弾着観測機)を搭載している。空母でもない戦艦が飛行機を積んでいたのは、この偵察と弾着観測のためだ。
レーダーが開発された今でも、事情はかわらない。電波は可視光線同様に直進するので、丸い地球に沿っては飛ばないからだ。空母が重視されるのは、その搭載する航空機によって水平線より遙か彼方の目標を見つけ、対処できるのが大きな理由の一つだ。ところが、そうした航空機(艦載の戦闘機や攻撃機)にも不満があった。航空機に積める爆弾やミサイルは、そう多くはないという問題だ。
もっと火力を
ジェット戦闘機をテーマにしたテレビゲームの多くは、ミサイルや機関砲の弾をいくらでも撃つことができ、弾切れとなることはない。もし実機同様の弾数に設定すれば、補給のためすぐ基地に戻ることになり、ゲームの“娯楽性”は低下する。だが実際の戦闘機では、搭載するミサイルの数は限られている。
空母から発艦する攻撃機の場合、大きな対艦ミサイルを2発積めば、後は増加燃料タンクと、自衛用の空対空ミサイルを2〜4発積む程度。かつての戦艦のように主砲を使って、爆弾よりも威力のある大口径砲弾を次々と放つような「圧倒的な火力投射能力」はない。
遠距離と火力の乏しさ。この2つの問題をいま、米海軍はクリアしようとしている。それが「NIFC−CA」(ニフカ)というコンセプト(概念)だ。
情報を共有する
ニフカは「Naval Integrated Fire Control−Counter Air」の略。海軍の艦艇のレーダーが探知できない、水平線以遠のミサイルなどについて、航空機のレーダーや赤外線などのセンサーでその位置や進行方向、速度といった情報を得て、データリンクで艦艇や他の航空機などに送り、協力して対処するという構想だ。
米海軍と海兵隊は共同して2016年9月12日、ニューメキシコ州ホワイトサンズ・ミサイル試験場で、F35を参加させたNIFC−CAの実験を初めて実施した。
イージス艦同様の高性能レーダーなどを設置した砂漠の実験用施設「デザートシップLLS−1」を海上のイージス艦に見立て、F35とデータリンクを確立。LLS−1の探知範囲外(水平線下)にある模擬目標をF35が発見、その目標データをLLS−1に伝達し、LLS−1は対空・対艦ミサイルSM−6を発射、目標に命中した。
米軍が描く青写真では、F35は最前線でレーダーや赤外線を使ったセンサー、人間で言えば目や耳の役となり、ミサイルの発射はステルス性が高くない艦上戦闘機FA18や、海上のイージス艦が担う。そして情報の集約・中継を行うのが安全な後方空域で滞空する早期警戒機E−2Dとなる。
ネットワーク化
この方法なら、F35は自機の持つミサイルを撃ち尽くした後もステルスという隠密性−被発見率の低さ−を活かしてセンサー役として最前線にとどまり、作戦行動を続けることが可能だ。目標を捉え、対処するためにミサイルが必要な時は「誰か撃ってくれ」と伝えれば、イージス艦や近くの攻撃機が“代わりに”撃ってくれる。
イージス艦一隻がVLS(ミサイル垂直発射装置)に備える各種ミサイルは約100発。見方を変えれば、ステルス機1機が「ミサイル100発以上を備える巨大な兵器庫」を持っているに等しくなるのだ。
実際にはF35のパイロットが「誰か撃ってくれ」というまでもなく、E−2D経由でデータを受け取る統合司令部が、イージス艦の火器管制システムを操って発射するような仕組みになる可能性がある。
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