2018年2月24日土曜日

自転車での「ながらスマホ」による死亡事故 予想される加害者への処罰

 警察庁の統計によれば、2016年度の「運転中のながらスマホ」を原因とする交通事故は1999件。うち死亡事故は27件起きている。事故総数は5年前から1.6倍に増えており、駅のホームでも「歩きスマホ」による転落事故が絶えない。

 2015年6月に施行された改正道路交通法により、信号無視や酒酔い運転、安全運転義務違反など14項目を自転車運転の危険行為と定め、3年以内に2回摘発された者は、各都道府県による安全講習の受講が義務づけられた。

 しかし、「ながらスマホ」による事故は増加の一途を辿り、危険運転行為の抑止効果は見えづらいのが現実である。愛知工科大学工学部名誉・特任教授の小塚一宏氏によれば、スマホを見ながら自転車を運転している時、人間の視野は通常の20分の1にまで狭窄しているという。

「人間は無意識のうちにさまざまな情報を目で追って認識しています。普通に運転している際は前方、左右と幅広く視線が動き、本能的に安全確認を行います。一方、スマホを見ながらの運転となると、小さな画面を中心に20〜30cmの範囲しか見えなくなる。時速10kmと仮定しても、1秒で2.8m進む。画面を5秒見ていると14mも進んでしまうわけで、極めて危険です」(小塚氏)

 かつて小塚氏は、駅のホームで学生にスマホを持たせて、ツイッターをしながら歩かせる実験をしたところ、すぐ横を通る子供にもまったく気づかなかったという。

「徒歩ですら、人にぶつかればけがをします。これが自転車ともなれば、もはや“動く凶器”といえるでしょう」(小塚氏)

 昨今、電動自転車の普及が拡大したことも、事故増加の一因となっている。経済産業省の統計によると、2016年の電動自転車の販売台数は、前年比15.3%増の53万9529台。今や自転車販売全体の約1割を占めるまでに成長した。

 ペダルに僅かな力をかけるだけでモーターが反応し、坂道も楽に登れる電動自転車は、足腰の弱った高齢者を中心に人気を博している。とりわけ高齢者の自転車事故は、こぎ出しの力が足りずに転倒するケースが目立ち、電動アシスト機能によって転倒を防ぐ効果もある。

 だが、同時にそのスピードも問題視されてきた。道路交通法により、日本の電動自転車は時速24kmを超えた時点でモーターが停止するよう設計されているが、逆にいえば時速20kmまではたやすく加速できる。

 原チャリ(原動機付自転車)に近い性能を持ちながら、法律上は自転車と同じ軽車両に分類され、免許も不要である。道路交通法に詳しいレイ法律事務所の松下真由美弁護士が語る。

「自転車は車に比べて圧倒的多数の人が利用するので、免許制度を導入すると、“誰でも利用できる”という最大の利便性が消えてしまうし、なにより行政の手間も膨大になります。一律に免許制にするのは現実的には難しいんです」

 自転車には車の自賠責保険に当たるものはなく、個人が任意で保険に加入することになる。過去には、自転車事故で9000万円を超える高額賠償が地裁で命じられたケースもあり、重大事故を起こした場合、保険に入っていなければ到底払いきれない金額が降りかかる。

「賠償金の額はケースバイケースですが、猛スピードで走っていた場合など、過失が大きく結果が重大な場合は、ときに車と同等かそれ以上の金額が請求されることもあります」(松下弁護士)

 昨年12月には川崎市の商店街で、左手にスマホ、右手に飲み物、左耳にイヤホンをした状態で電動自転車を運転していた女子大生が77才の女性と衝突。女性が死亡する事故が発生した。この事故で神奈川県警麻生署は2月15日、加害者の女子大生を「重過失致死罪」の容疑で書類送検した。

「重大な過失により人を死傷させた、という場合に適用されるもので、5年以下の懲役・禁固又は100万円以下の罰金が科せられます。事故から2か月経っての起訴となったのは、加害者に逃走の恐れがなく、逮捕による身柄拘束と取り調べを警察が必要としなかったからでしょう。時間をかけて捜査して、“自転車の運転手に重大な過失があった”という証拠を固めた上で送検をした。被害者が死亡していることもあり、起訴される可能性は高いと思います。おそらく執行猶予付きの禁固刑になるのではないか」(松下弁護士)

 民事裁判の損害賠償の相場に比べ、「刑罪規定が軽すぎる」という声も噴出している川崎市の事故。スピードは原チャリ並み、事故時の賠償は車と同等、しかし免許は不要で保険加入の義務なし──。今回の事故は、電動自転車の抱える矛盾を浮き彫りにしたといえる。

※女性セブン2018年3月8日号

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