滝川クリステルも見限った「ピースワンコ」の捨て犬虐待(1/2)
犬の殺処分など、ないほうがいいに決まっているが、救ったはずが殺処分より酷い虐待を加えているなら……。「殺処分ゼロ」を掲げて浄財を集める「ピースワンコ」。滝川クリステルも見限ったその偽善の実態を、内部で働いた獣医師、竹中玲子さん(54)が告発する。
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その昔、「てめえら人間じゃねえや、叩き斬ってやる!」という決めゼリフが毎回飛び出す時代劇があったが、言うまでもなく、人間じゃなきゃ叩き斬っていいという法はない。犬も殺処分せずに済むに越したことはない。
だから、ピースワンコ・ジャパンのHPで〈犬と愛犬家の楽園〉〈殺処分ゼロへのチャレンジ〉等の文言を見れば、共鳴する人も多いだろう。そこには〈ふるさと納税で支援! これ以上、ワンコを殺処分させない〉とも書かれ、結果、広島の犬の殺処分ゼロが9月9日現在で892日続いている旨が記されている。
ピースワンコ・ジャパンとは、広島県神石高原町に本部があり、紛争解決や災害支援で知られるNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)のプロジェクト。5月17日付の朝日新聞広島全県版の記事から引用して説明すれば、〈野良犬や捨て犬をすべて引き取り、里親探しに奔走。都市部の愛犬家たちが、ふるさと納税で年間数億円の寄付をして支え、町のPRにも一役買っている〉というもの。要は、行政が収容した身寄りのない犬をふるさと納税を使って引き取り、保護し、里親に渡す事業である。神石高原町の入江嘉則町長も、
「『犬の殺処分ゼロ』事業を持続可能なものにするためには多額の費用が必要で、ふるさと納税を活用し、思いを同じくする皆様のお力を借りることとしました」
と胸を張る。
先の記事を書いた記者は、保護施設を訪ねたそうで、〈犬舎には庭付きの小部屋が並び、共用のドッグランがある。どの犬にも名前があり、部屋には3〜5頭ずつ入れられて、人懐こそうに窓から顔をのぞかせる犬もいる。スタッフの多くは20〜30代。施設は同町周辺に4カ所あり、約2千頭が暮らす〉と記事に記されている。殺されるはずだった犬たちが、文字通り「楽園」で暮らせるなら、たしかに「納税」する意義がありそうだ。
滝川クリステルへのメール
ピースワンコの活動は、神石高原町や広島県に留まらない。たとえば、ロックバンド「SEKAI NO OWARI」も処分ゼロ活動のパートナーである。また一昨年と昨年は8月下旬、本郷の東大で「アニマル・ウェルフェア サミット」を開催。このイベントは、やはり犬猫の殺処分ゼロなどをめざし、滝川クリステルが代表理事を務めるクリステル・ヴィ・アンサンブルとの共催で、小池百合子都知事も駆けつけ、「殺処分ゼロ!」と呼びかけていた。
ところが、継続して行われるはずだった「サミット」が、今年は流れてしまった。なにがあったのか。実は、今年2月、滝川宛てにこう書かれたメールが送られていた。
〈私は2017年6月〜2018年1月まで12月を除く7か月間、毎月約1週間PWJの医療サポートに入っておりました。PWJは大きく4つのシェルターに別(ママ)れ、私はその中でも最大のシェルターの犬の医療にかかわりました。6月の時点でそのシェルターには900頭、2018年1月時点では1400頭の過密収容です。10畳ほどに20頭以上が入る部屋もあり月に約30頭が死亡しています。多くの死亡原因は集団リンチによる外傷性ショック、失血死などです。私が滞在した日も毎日1〜2頭の死亡検案書を書きました。私を含めスタッフがPTSDになり、1年足らずで退職する者も珍しくありません〉
先の朝日の記事とあまりにも違う。ここからは、メールを書いた「れいこスペイクリニック」(旧れいこ動物病院)の竹中玲子獣医師に、見たままを語ってもらう。
野犬ばかりのスコラ高原シェルター
私も最初の2カ月は、だれもが見学できるシェルターで、犬の一般診療に携わりました。そこはピースワンコの表の顔で、選別された200頭前後の、里親が見つかりそうなフレンドリーな犬を、15〜20名ほどのスタッフで世話しています。施設もきれいで、フードも手羽先を叩いて煮たのを混ぜてあげたり、老犬には食事に配慮し、お尻をもって運動させたりもする老犬クラブが存在したり、至れり尽くせりです。
2カ月ほどして、神石高原町内のスコラ高原シェルターが手薄なので、こちらに詰めてほしい、と指示されました。そもそも、狂犬病の予防注射を打つのが追いつかないので手伝ってほしい、というのが、私がピースワンコに呼ばれた理由です。それからは毎日、犬たちに注射を打つ日々でしたが、同時に、驚くべき光景ばかりが目の前に展開することになったのです。
公開されているシェルターでは一頭一頭にスタッフの目が行き届き、病気の犬は口元までご飯を運んで食べさせてもらっています。ところが、一般の人には場所すら知らされていないスコラ高原シェルターの犬たちは、比較にならないほど差別されていました。
そこでは犬の9割以上は雑種で、人に慣れていない事実上の野犬ばかり。私が初めて行った時点で900頭ほどいて、狭い空間に20頭は押し込まれていたりと、劣悪な環境で暮らしていました。犬舎の床はペンキが塗られ、ドッグランは土なので、どの犬も爪が通常の2倍くらいに伸び、爪の損傷も多いのですが、爪を切ろうとして押さえると、反撃してくるような犬ばかり。床で足を滑らせ、臀部を打撲したり足を捻挫したりという症例も多かったです。
こんな犬たちを7、8人で世話して、スタッフ1人当たりの頭数は、公開のシェルターの10倍くらい。フードも1日1回、直径30センチくらいの皿を20頭につき三つ程度置くだけ。取り合いで食べ、満腹にならない犬もいます。しかも驚いたことに、外科の器具が一切ない。犬がケガをしても処置さえできません。治療が難しい病気の犬などは、たった1人の専属獣医師がクルマに乗せて街の獣医師のもとに運びますが、いったん出かけると24時間戻らないこともありました。
集団リンチでほぼ毎日
私が想像もしなかったのは、犬たちの集団リンチの存在でした。狭い犬舎に閉じ込められている犬たちは、ストレスの極限状態にあります。だから、ほとんどの犬の便が軟便か未消化便で、施設全体に独特の発酵臭が立ち込めています。そして、みな日ごろから鳴き叫んでいますが、一部の犬がほかの犬の足や尻尾を踏んだりしたのを機に、全頭が弱い犬に突撃するんです。みんなイライラしながら生きることに必死で、自分の命を一番に考える。だから弱い犬を直撃するんです。
咬み方は、いわゆる本咬み。彼らは本能的に、犬の急所である首や内股を狙い、傷は深さ3、4センチに達して、頸動脈に穴が空いていることもある。または、圧迫死で外傷がないこともあります。シェルター内での死亡原因はほぼ外傷です。1日2頭死ぬ日もあれば、1頭も死なない日もありましたが、平均すると1日1頭は死んでいました。
もちろん、スタッフたちは、犬が死ぬたびに涙を流しています。そもそも、人の会話も聴き取りにくいほど多頭の犬が鳴き叫ぶ環境ではストレスがひどく、胃痛や食欲不振、不眠で医者にかかる人もいました。ストレスから「このままだと犬を蹴り殺してしまいそうだ」と言っていたスタッフは、実際に蹴ってしまって辞めていきました。私自身も、毎日犬たちが文字通り“犬死(いぬじに)”していくのに、獣医師として何もできない虚無感から、毎月、東京に戻るたびに精神的に不安定になり、自分でPTSDだと感じていました。
(2)へつづく
「週刊新潮」2018年9月20日号 掲載
http://news.livedoor.com/article/detail/15349226/
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